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CX(カスタマーエクスペリエンス)の最大化を図るための顧客視点について

CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、機能・性能・価格といった商品やサービスそのものの価値だけでなく、購入するまでの過程・使用する過程・購入後のフォローアップなど、「ある商品やサービスの利用における顧客視点での体験」のことです。
CXの基本は顧客の視点に立って考えることです。
顧客視点を持ち、顧客体験を設計するには、経営や開発、KPIなど、様々な変革が必要になってきます。本記事では、CXの最大化を図るために顧客視点がなぜ大切なのか、そしてどのようにCXを最大化していくのか多角的な視点で、特に最新のマーケティングの動向を中心にお伝えしていきます。

マーケットインついて

プロダクトアウトとマーケットイン

プロダクトアウトとマーケットインの2つの商品・サービス開発方法は、企業方針もしくは顧客ニーズを軸とする点で違いがあります。
プロダクトアウトとは、企業が自社の技術や設備、人材などを最大限活かして、企業の意思や判断を基に商品を企画開発することです。
一方のマーケットインとは、「企業が売りたい商品」という考えではなく「消費者のニーズを汲み取り、消費者が望む商品」を企画開発することです。
データやアンケート、レビューなどを活用し、定量調査や定性調査を重ねることで、消費者のニーズをあぶりだし、その解決策を提供しようとするアプローチ方法です。

プロダクトアウトからマーケットインが生まれた背景

現代では、多くの商品やサービスが溢れ、市場は成熟し、消費者のニーズが多様化しています。
さらにITの進化、スマホの普及によって、消費者の購買行動も多様化しています。
そこで、広く一般に受け入れられるマスを対象とした商品よりも、個人に合致するニッチな商品やサービスが求められるように消費者のニーズも変化していきました。
個の多様性を尊重し、ライフスタイルに寄り添う商品やサービスの開発を行うには、マーケットインの顧客視点を軸にプロダクトを開発することが必要になります。
ターゲットを絞り込み、そのターゲットに刺さるように商品・サービスを差別化していきます。
用途やシーンを限定したり、年齢や地域、悩み、シーンなど、ピンポイントで訴求するなどといった方法があります。
例えばですが、「朝専用コーヒー」などもターゲットをピンポイントにしてますね。
商品・サービスのリリース後は、口コミ・レビュー、アンケートなど、消費者の不満はなんなのか、そしてその不満を改善し続けることが求められます。
口コミ・レビュー、アンケートでは、どんな人がどんなニーズで買っているのか、どんな不満があるのかを知ることができ、顧客の解像度が上がります。
顧客を知ることで、どう宣伝すればいいのか、どういう機能があればいいのかなど、新たなニーズの発見にも繋がります。
例えば、財布をメインに販売していて、口コミなどからギフトで選ばれていることが多いことがわかれば、「ギフトに最適」などECサイトの商品詳細ページに一言目立つ位置に記載したり、包装にもこだわることで、購入に繋げるといったイメージです。

※この時代の変化に対応するためのマーケット・インの考え方は、マーケティング活動を行う中で重視されてきましたが、必ずしも「プロダクト・アウト」が推奨されないわけではありません。
AppleのiPhoneなどはもともと市場にニーズがあったわけではない、「プロダクトアウト」の考え方から生まれたものです。

成長を続けるD2C市場の強み

D2C市場は年々拡大しており、これからも拡大していくことが予測されています。
消費者の消費行動の変化、ニーズの多様化、Eコマースの一般化、SNSの普及など、今の市場のニーズとD2Cが非常にマッチします。
D2Cの強みは、多様化する顧客の声やデータ、ニーズをダイレクトに収集でき、その情報を活用してバリューチェーンをコントロールし、商品の企画や開発、製造加工物流まで、最適化することで顧客体験(CX)を向上させることにあります。
ニーズを収集する際には、顧客と接点のある従業員へのヒアリングや購買や行動データから読み取る、アンケートやインタビューなど、D2Cでは、様々な顧客情報をダイレクトに収集できます。
メーカーは、ダイレクトに顧客の声を聞いたりデータ量が乏しく、逆に小売業であれば、顧客の声を商品開発に活かすことができません。
小売業は、プライベートブランドを持つことや、取扱商品の多さなどで差別化する方法を取ってきました。
ユニクロやZARAなどのSPAモデルが台頭し、昨今大手企業でもD2Cに参入するケースが増えており、より一層D2C市場が拡大していくかと思います。
D2C形態をとっている企業は、販売チャネルをモールから自社サイトに移行しているケースも多い傾向にあります。
消費者のブランドにおける信頼度が高まっていることや、ブランドにおいても消費者と直接コミュニケーションを取ることでダイレクトな顧客データを収集できるなど、D2C、そして自社ECに移行が進む要因であると考えられます。

自社ECサイトのメリット

自社ECサイトを持つことは、楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングなどのECモールでは得られないメリットがたくさんあります。
顧客情報をダイレクトに収集でき、顧客に一人ひとりに合わせた接客・レコメンドを可能とし、SNSとの連携や有益なコンテンツの発信などが大きな強みです。
自社ECサイトでは、顧客との関係を構築し、繋がりを深め、ファン化することが求められます。

※商品・サービスの認知度が低い場合には、大手モールも使っていくことも視野に入れましょう。

CXを最大化し、顧客ロイヤリティを高める

多くの商品やサービスが溢れ、市場が成熟すると製品スペック等の機能的価値による差別化や新規顧客の獲得が困難になってきています。
そして顧客の購買行動は、「モノ消費からコト消費」に変化していきました。
モノ消費は、商品・サービスに自体に価値を見出す消費スタイルですが、コト消費は、商品・サービスによって得られる「体験・経験」に価値を見出します。
このように商品だけでの差別化が難しい市場の現状や消費者のコト消費への購買行動の変化、さらにはオムニチャネル化などから、より一層CXの重要度が増し、あらゆる企業がCXの最大化を目指す取り組みを行っています。
CXの最大化を目指すには、商品だけの価値ではなく、顧客視点で顧客体験全体を設計する必要があります。
例えば、フルフィルメント業務を改革し、最短で配送することや、商品がどのように梱包されているか、商品を使用するときに疑問がある場合、カスタマーセンターが充実しているのかなど、顧客体験には様々な要素があります。
顧客体験が向上することで、LTVの最大化や顧客ロイヤリティの向上、そして顧客のSNSや口コミでの拡散などに繋がります。
顧客が商品やサービスを利用し、それを口コミやシェアをし、さらなる顧客を呼び込むことが当たり前の時代となっており、「顧客がセールスする時代」とも言えます。
自社が発信したい内容を発信するのではなく、第三者の顧客自身が発信するので、自社のコントロール外にある「顧客の口コミやシェア」をいかに喜びの声として発信してもらえるかどうかが非常に重要です。
顧客ロイヤリティの高い優良顧客は、いい口コミ・レビューの発信、商品の再購入、長期間利用、建設的な商品へのフィードバックなど、様々な恩恵を与えてくれます。

さまざまなタッチポイントから顧客データを収集し、パーソナライズされた顧客体験を提供する

CXでは「パーソナライズ」という考え方がとても重要です。
パーソナライズとは、顧客の属性や購買、行動履歴といったデータをもとに顧客のニーズを把握し、最適な情報やサービスを提供する手法です。
顧客をマスで捉えるのではなく、一人ひとりの顧客として見るので、まずは顧客一人ひとりを理解する必要があります。

CDPなどのツールを使い、様々なタッチポイントから得られる顧客の詳細なデータを一箇所に収集し、分析することで、解像度の高い顧客情報となり、顧客理解を深めることができます。
顧客を理解することで、顧客一人ひとり合わせたアプローチを行うことが可能になります。
パーソナライズされた体験を提供するうえで、顧客の置かれている状況やフェーズを考慮し、それぞれに適したサービスを提供することが重要です。
適切なタイミング、必要な情報を届けることで顧客のエンゲージメントを高めることができます。

顧客の視点から体験価値を設計するには、ペルソナ設定やカスタマージャーニーマップを作成することをオススメします。

さまざまなタッチポイントから収集した顧客情報を一元管理する際には、オムニチャネル戦略が有効です。

CXの最大化に対するKPIの変化

CXの最大化を図るためには、KPIにも変化が現れます。
目先の短期的な売上や利益を最大化するKPIではなく、継続率・継続回数などを測るLTVやARUP、顧客ロイヤリティを測るNPSなど、顧客にフォーカスしたKPIを設定する必要があります。
なぜこのようにKPIが変化していったのか。
要因としては、
①デジタル技術の進化・デジタルデータの増大により、顧客一人ひとりの購買行動を計測できるようになったこと
②顧客全体の2割である優良顧客が売上の8割をあげているパレートの法則、新規顧客を獲得するには、既存のお客様の5倍のコストがかかるという1:5の法則、広告費(CPA、CPI)の上昇などから既存顧客の重要性が高いこと
③商品・サービスの定額(サブスク)化、オムニチャネル化による顧客視点での戦略を実施していることなど
様々な要因があります。

重要なポイントとしては、目先の売上達成を目標にするのではなく、顧客満足度や顧客ロイヤリティの向上が重視されるようになり、KPIも自ずと顧客視点に変わっていきたことです。
顧客満足度や顧客ロイヤリティ、エンゲージメントを上げるには、顧客を知ること、顧客視点が重要になります。
様々なタッチポイントからのデータの収集、口コミやレビュー、顧客と直接やりとりのある従業員の声、アンケートやインタビューなどで、顧客を知り、商品・サービスの開発・改善、オフラインオンライン問わずパーソナライズされた接客や対応をすることで、顧客満足度や顧客ロイヤリティの向上を目指しています。
こうしたKPIの変化によって、従業員は無理な営業や押し売りをする必要がなく、本当にお客様の満足を追求するために、顧客満足度を高めたサービスを提供でき、ES(従業員満足度)の向上、ファンづくりがしやすい社内体制を構築できます。

NPSで顧客ロイヤリティを測る

NPS(ネットプロモータースコア)は、企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるか、顧客ロイヤリティを測る指標です。
NPSでは顧客に「あなたはこの商品・サービスを友人や同僚に勧めたいですか?」と質問します。
商品やサービスに満足しているかではなく勧めたいかが重要なポイントです。
顧客が商品やサービスに満足していることと、長期的に買い続けることの間には相関性がない事実が判明してきました。
そこで、NPSが注目されるようになったのです。
顧客に勧めたい度合いを0~10の11段階で評価をしてもらいます。
0〜6点を「批判者」、7〜8点を「中立者」、9〜10点を「推奨者」として分類します。
最終的に、NPSは推奨者の割合(%)から、批判者の割合(%)を引いで出てきた数値がNPSの値となります。
顧客ロイヤルティには収益や事業の成長率との相関も高いことから、KPIの指標として取り入れやすく、欧米の公開企業では3分の1以上が活用しているとも言われています。

ARUP/LTV

ARUPは、1ユーザーあたりの平均売上金額のことで、LTVは、顧客から生涯にわたって得られる利益のことです。
LTVは生涯顧客価値なので、事業立ち上げ時に設定しても活用が難しいので、ARUPを使い年単位の目標を決めるなど、企業の状況に合わせて設定しましょう。
クロスセル商品がある場合は、クロスセルも想定し目標を立てましょう。
ARUPの目標を立て、ゆくゆくはLTVの最大化を目指していくことが活用イメージです。
ARUPの分析では、客単価、期間ごとのリピート率や回数ごとのリピート率、1年ごとのリピート率などの遷移を分析します。
一定期間経った後に、どの程度の期間でリピートされているか検証し、平均購入頻度を理解し、顧客の最適な購入のタイミングでの提案が可能となります。
目標の数値と実際の購入頻度に差があれば、ユーザーにヒアリングなどを行い、原因を調査し、対策することが必要になります。

ARUP/LTVを最大化するためのコホート分析の方法

「コホート」とは「同じ時期に似たような経験をしているグループ」を意味します。
Webサービスやアプリにおける「コホート分析」は、ユーザーを属性や条件、行動でグループに分け、それぞれのグループの動向から傾向を探る分析方法です。
具体的な例としては、過去に行ったキャンペーン施策の効果を測るために用いることができます。
自社サイトの利用ユーザーを対象にして、ユーザーが利用したキャンペーンごとにグループ分けをすることで、各グループの月ごとのコンバージョン率や購入金額などの変化を追跡してキャンペーンの有効性を定量的に評価することができます。
目的によってコホート分けの種類や計測期間はさまざまです。
「ダウンロードした週が同じユーザー」や「同じキャンペーンを経由したユーザー」といった条件だけでなく、性別や年代別、デバイスなどの属性によって、コホート分けする場合もあります。

カスタマーエクスペリエンスに注力している企業事例

スターバックス

コーヒーチェーン世界最大手のスターバックスは、家庭でも職場でもない第三の場所「サードプレイス」という位置付けを行い、接客から店内環境などを含めた来店中の全ての体験を「顧客への特別な体験の提供」として、コンセプトに沿ったCXの提供に注力しています。
具体的には、心地のよい接客スタイル、店内のインテリアやBGMなど全てに一貫性があり、来店して得られるCXを高め、顧客満足度へのこだわりが感じられます。 
特に近年ではデジタル施策を多く取り入れており、モバイルからのオーダーやモバイルアプリでの決済、スマートフォンアプリで楽しみながらポイントを貯めていけるリワードプログラム、季節ごとのキャンペーンやAR(拡張現実)を使った疑似体験など、先進的な技術も取り入れながら、特別な体験を提供し、常にCX向上に取り組んでいる企業の代表的な事例となっています。

Amazon

eコマース事業を展開する世界的企業「Amazon」が世界最先端企業になれた要因は、「地球上で最も顧客第一主義の会社」のビジョンと、カスタマーエクスペリエンスへのこだわりだと言われています。
創業当時から顧客目線での事業展開を徹底し、「低価格・品揃え・迅速な配達」に重要なニーズがあり、低価格、品揃え、利便性を兼ね備えたサービスを提供することで、カスタマーエクスペリエンスが高まると考えていました。
そしてこのニーズは今も昔も将来も求められていると考えており、それをしっかりとサービスに落とし込んでいます。
たとえば、注文した商品が早ければ翌日には届くことや顧客の状況にあわせて商品の到着日時が選ぶことができるなど、配送にも工夫を凝らしているのが特徴的です。
閲覧・購入履歴に合わせた精度の高い人気商品のレコメンド機能をはじめ、Amazonは常に新しい価値を提供し続けており、企業としての地位を確固たるものにしています。

まとめ

「CXの最大化を図るための顧客視点について」多角的な視点で、特に最新のマーケティングの動向を中心にお伝えしました。
CXの最大化には様々な方法があるので、ここでお伝えしたのは、ごく一部ですが、どの方法を取るにしても「顧客視点」というのがキーワードになってくると思います
いかに顧客の立場に立って体験を設計できるか、そのためには、まずは顧客を知ること、そして時代に合わせたビジネスモデルの変革、バリューチェーンの見直し、KPIの設定など、常にPDCA(計画・分析・検証・改善)を回していくことが必要になってきます。
そういった取り組みを実施していかないとブランドは衰退していくことになると思います。
では、今回はこの辺で。

この記事の著者

イノウエ リョウヘイ

プランナー/ディレクター/マーケター

ECサイト、ブランドサイト、コーポレート、採用サイト、オウンドメディアなどのウェブサイト制作やプランニング、マーケティングについて、私のナレッジを発信しています。

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