LANWAY JOURNAL あなたの知りたいを叶えるメディア

  • ナレッジ記事
  • マーケター・ディレクター
  • メインビジュアル

小売業におけるオムニチャネル戦略について徹底解説​

近年、ECサイト、アプリ、SNS、実店舗など、顧客との接点となるチャネルを連携させアプローチする「オムニチャネル」というマーケティング戦略が注目されています。本記事では、「オムニチャネルは聞いたことはあるけど、実施するためにはどうしたらいいの?」という方に向けてオムニチャネルについての説明とメリット、実施するための課題について詳しくご紹介します。 オムニチャネルとは? 顧客との接点となるすべてのチャネルを連携させ、顧客にチャネルごとの違いを意識させることなく、シームレスな買い物体験を提供できる状態を作ることを指します。「シームレスな買い物体験を提供できる状態」とは、顧客があるタッチポイントから他のタッチポイントに移動する際に、情報が統合されていて、間断なく提供される状態のことを指します。例えば、ECで貯めたポイントを店舗で購入する際も使えることや店舗で購入した顧客のデータがECサイトのパーソナライズに利用させるなどです。各チャネルには、実店舗やウェブサイト、アプリ、SNS、カタログ、チラシ、メールマガジンなどがあります。 オムニチャネルが注目されるようになった背景 オムニチャネルが注目されるようになった背景にはスマートフォン(インターネット)の普及が大きく関係しています。これまではマス広告(テレビCMやラジオ、新聞や雑誌など)で多くの人に認知してもらい、実店舗で購入することが主流でしたが、スマートフォンの登場により、購買行動は多様化してきました。近年はECサイトでの商品情報の検索や閲覧、SNSや口コミサイトでのレビューの確認、そしてECサイトで購入するするという一連の購買行動を、スマートフォン1台で完結することが可能です。 また、ECサイトで確認し、店舗で購入するウェブルーミングや店舗で商品を実際に確認し、ネットで安く購入するショールーミングなど、企業としては多様化する顧客の購買行動に合わせてマーケティング戦略を立案・実行することが求められてきました。他にも「顧客情報」を正確に把握できるようになったこともオムニチャネル化が進んだ要因のひとつといえます。あるチャネルから得た顧客情報を他のチャネルでも共有・活用することで、サービスの利便性を向上させ、質の高いアプローチが可能となったのです。 オムニチャネル戦略がもたらすメリット 顧客体験の向上(CX/UXの最大化) オムニチャネルではさまざまなチャネルをシームレスに連携し、接客・販売が可能なため、顧客満足度が高まります。例えば、ECサイトで購入し店舗で受け取ることや店舗で見てECで購入したり、ECサイトで在庫確認したり、ECサイトで購入した商品を実店舗で返品したりなど、オムニチャネルの導入によって、顧客のライフスタイルや機会に合わせた購入ができます。 また、消費者は「モノ消費」から「コト消費」の時代へ突入しており、これまでの製品価値(機能)で勝負するのではなく、製品やサービスを通じて得られる体験が重要になっています。さまざまなチャネルをシームレスに連携することで、より便利に買い物を楽しんでもらうことができ、顧客ロイヤリティが高まりリピーターになってもらいやすくなります。 顧客データの統合により一貫したマーケティングを提供でき、顧客分析やアプローチの質が上がる これまでのマルチチャネルの場合、チャネルごとに顧客情報を管理・分析していたため、チャネルを跨いだ人物の紐付けが困難でした。しかしオムニチャネルでは、ECサイトやアプリ、実店舗などのさまざまな顧客との接点から取集できる顧客の属性や購買行動などの顧客データを連携し一元管理することで、チャネルを跨いでも一人の顧客を特定できるようになりました。そのデータを分析することで、顧客の解像度が上がり、個々のニーズに合った精度の高い販売促進を行うことができます。 また、オムニチャネルは、全てのチャネルが連携させているため、顧客に対して一貫したマーケティングが可能になります。例えば、それぞれのチャネルが独立していると顧客の閲覧履歴や購買履歴なども共有されないためSNSや店舗からのDMなどで全く違うアプローチをしてしまいます。一元的に管理された閲覧履歴や販売履歴を元に、顧客にとって今一番オススメしたい商品をメルマガやDMでも一貫してオススメした方が購買率は高まるでしょう。また、シングルチャネルのユーザーよりオムニチャネルのユーザーの方が購入額や購入確率・頻度が高いという分析もあります。 機会損失の減少 オムニチャネルでは物流や在庫も各チャネルの枠を超えて管理されるため、適切な在庫管理が可能となり、品切れを防いだりということに繋がります。例えば「サイトで見て気になる商品があり、実際に店舗に行ってみたが在庫がなく購入できなかった」という場合、そのまま購入を諦めるか他社の商品を購入することになり、機会損失が発生してしまいます。しかし、ECサイトの在庫からや他店舗から取り寄せなどで、後日自宅に配送するという選択肢があれば、機会を逃さず販売可能になります。そこで商品在庫を一元管理することで、チャネル全体の在庫状況をリアルタイムで把握でき、店舗の在庫切れ商品をECサイト経由で後日自宅に配送したり、ECサイト用の倉庫から在庫がなくても店舗の在庫を発送したりすることができます。 オムニチャネル戦略を実施する際に取り組むべき課題 オムニチャネル戦略を実施するには、さまざまな変革を行わなければいけません。下記では、主要となる変革についてお伝えします。 企業内部の変革 オムニチャネルはシームレスな買い物体験を顧客に提供する必要があるため、オムニチャネルを総合的に管理できる部署などがない場合、新たに新設する必要があります。例えば、ウェブマーケティング部署だけがオムニチャネルを実施しようとした場合、ECサイトやサービスサイトやSNSで個別に対応したとしても店舗と連携できてなければ意味がありません。ECサイトとSNSの運営部署も違うかもしれません。このような状態だとオムニチャネルの実現は難しいでしょう。各チャネルがどのように機能していて、どのように連携しているか、全体を把握しないと最適なオムニチャネルは実現しません。 また、店舗運営とECサイト運営では、必要な能力も違います。店舗運営であれば店舗管理や接客、ECであればデジタルマーケティング能力などが必要になります。こうした各チャネルの違いや保有しているリソース、必要な能力を理解し、各チャネルへの適切なリソースや能力などの配分・調整、部門間の知識共有を促進できる部署や人材を配置することが求められます。 参照:小売業におけるチャネル連携(オムニチャネル)への動きと今後の課題 外部知識の活用や外部知識を部門間で共有することも重要となります。オムニチャネルは顧客からみたシームレスな買い物体験ですが、それは社内体制も連携するということなのです。そして経営層のオムニチャネルの理解も必要不可欠です。なぜなら現場がオムニチャネルを実施しようとしても企業全体として変革が必要となるため、経営層の理解がないと大きな変革は期待できないからです。 また、店舗やECサイトで売上を取り合うような対立を回避する仕組みも構築しなければいけません。部門レベルで進めていくと部分最適化に走ることになります。オムニチャネル戦略を実施するには、各部署の従業員が顧客のカスタマージャーニー上のどの役割を求められているか、オムニチャネルとはなんなのかを理解することも重要です。店舗で見てECサイトで購入するショールーミングする顧客へ他社のECに流れないようECサイトへ案内することやECサイトで購入して店舗で受け取る際にクロスセルの提案など、マルチチャネルではなかった接客も必要となります。 物流の見直し改善 商品の発注から受け取りまでのリードタイムをいかに短くするかが課題となります。受け取りまでの期間は、顧客満足度に大きく関わってくる重要な項目です。近年、顧客の早く受け取りたいというニーズに応えるため、各EC事業者がリードタイムの短さで競争を繰り広げています。そしてオムニチャネルでは、ECサイトで購入し、自宅配送はもちろんのこと店舗受け取りや受け取り場所指定などに対応する必要があります。リードタイムを短くするために、宅配業者だけではなく、店舗がEC商品の配送や受け取りの役割を担うことも必要となります。ECからの注文であっても店舗の在庫から対応することで、配送コストや顧客の買い物コストの削減、商品・在庫の回転率が上がります。こうしたサプライチェーン全体をコーディネートできるノウハウのある企業の選定や人材の配置が必要になります。 BOPIS/クリック&コレクト BOPISとは、ECで注文して店舗で受け取ることができるサービスです。クリック&コレクトとは、ECで注文して店舗だけでなく指定の場所で受け取ることができるサービスです。実店舗を展開している場合、BOPISやクリック&コレクトが可能となります。各地の実店舗に物流センターとしての機能を持たせ、一元管理されている商品在庫でEC注文に対応することになります。 BOPIS(ボピス)についてはこちらで解説しています コロナ禍で普及が進む店頭受け取りサービスBOPIS(ボピス)とは? ここ近年、ECサイトで購入した商品の受け取り方法が、自宅受け取りだけでなく店舗や専用ロッカー、宅配ボックスで受け取るなど、多様化してきています。 今回はさまざまな受け取り方法の中からECサイトで注文し、店舗で受け取るBOPIS(ボピス)についてお伝えしていきます。 BOPIS(ボピス)は、新型コロナウイルスの影響で需要が増加し、国内でも徐々に普及しつつあります。 ショールーミングストア ショールーミングストアとは、店舗は商品を実際に触って確認することに特化し、商品販売を行わない店舗のことです。 店舗で在庫を抱えなくなるので、店舗を配送拠点とすることができないので、物流センターや仕入れ先から直接顧客に届くことになります。したがって物流処理能力の高い業者との協力が必須と言えます。 ショールーミングについてはこちらで解説しています ショールーミングとは?具体的な課題や対策、事例などをご紹介 インターネットの発展やスマートフォンの普及によって、消費者の購買行動は大きく変化していきました。 そしてネットショッピングが一般化したことにより、店舗で商品を見て、ECサイトで購入するショールーミングと呼ばれる購買行動がよく見られるようになりました。  ITツールの導入 オムニチャネルを実現するには、さまざまな外部のITツールの導入・連携が必要になります。ITツールを導入せずに、自社で開発すると開発期間・開発コスト、導入後のメンテナンスや改修作業など、膨大な時間とコストがかかるので、外部のITツールと今ある自社の基幹システムを連携することが一般的かと思います。ここではオムニチャネル戦略を実施する際の代表的なITツールを紹介します。 顧客情報一元管理(CDP/CRM)と活用(MA) 顧客情報を一元管理していないチャネルごとに分断されたマルチチャネルの状態だと、分断されたチャネルごとでしか顧客情報を把握することができず、顧客の解像度は低い状態になります。ECサイトや実店舗、アプリなど、さまざまなチャネルから収集できる顧客の属性や閲覧・購入履歴などの行動データをCDPやCRMなどのプラットフォームにより、1つの場所に収集・統合することで、解像度の高い顧客データを分析・活用することが可能になります。一元管理した精度の高い顧客データに基づいて、最も効率的で精度の高い顧客体験・施策をMAにより実行することで、パーソナライズされたメルマガ、ECサイトでの商品のレコメンドなど、顧客一人一人に最低化したサービスを提供することができます。 在庫一元管理とECサイトでの受注から出荷までの自動化(OMS/WMS) オムチャネルでは、商品・在庫などの品揃えをチャネル間でいかに調整するかが重要です。実店舗、ECサイト、物流センター、移送中のトラックなどの在庫情報をリアルタイムで一元管理することで、各店舗やECサイトにどのくらい商品が置いてあるかなどの在庫データを可視化し共有することが可能になります。A店舗に在庫がない場合、他店舗に在庫があるのかリアルタイムで把握できることやECサイトで注文した商品を実店舗で返品したり、ECで注文した商品を実店舗の在庫で受け取りすることが可能となります。また、受注管理システム(OMS)・倉庫管理システム(WMS)により、ECサイトでの受注から出荷までを自動化することで24時間365日いつでも自動出荷できます。受注スルー率を向上させ、フルフィルメント比率を下げることでコストを抑え、リードタイムを短くすることができます。受注スルー率とは、商品を受注してから出荷するまで、無人化・自動化に成功した割合を数値化したものです。アマゾンフルフィルメントでは、受注スルー率は100%に近いと言われており、注文があってからほとんど人の手が入らないということを意味しています。フルフィルメント比率とは、顧客から注文が入ってから決済や商品到着までの一連の業務にかかるコストのことです。 フルフィルメントについてはこちらで解説しています フルフィルメントとは?ECサイト担当者が知っておくべき基礎知識について 昨今、ECサイトや通販業界で注目が高まるフルフィルメント。 フルフィルメントとは、ECサイトやモールで商品の注文を受けてから届けるまでの一連の業務プロセスを指します。 顧客満足度を大きく左右する業務であるため、多くの企業が効率的で高品質なサービスを目指しています。 人事評価・モチベーションの向上 社員の人事評価・モチベーションの向上は、よく指摘される重要な課題です。オムニチャネルは社内全体の改革で相関関係が複雑なため、誰のどの活動で成果が出たのか把握しにくいので、正確な人事評価が難しく、社員のモチベーションを保ちにくい傾向にあると言われることもあります。オムニチャネルを推進するためには、社員の正確な人事評価は不可欠であり、最終的な目標である売上・利益の最大化を達成する過程では同時に社員のモチベーションを向上させるような仕組みや評価制度を確立する必要があります。例えば、ECサイトで購入し店舗で受け取る場合、EC事業部に売上として計上され、対応した店舗にも評価がつかなければ、部門間で協力体制が構築できず対立することになります。人事評価もオムニチャネルに合わせ変革していく必要があります。この問題を解決する1つの策として、「EC関与売上/ダブルカウント」という新たな発想を取り入れることで、店舗とEC事業部の協力体制を強化している企業もあります。評価を売上を軸にしてしまうと売上を上げた店舗や部署だけに評価が付く事になりますこれを防ぐために、評価として売上だけを見るのではなく、貢献も評価としてダブルカウントすることで、社内対立を防ぎ、協力体制を強化することができます。財務諸表上では店舗に売上を計上し、EC事業部にも同額の貢献評価をつけてダブルカウントし、EC関与売上とするのです。財務諸表上の売上をダブルカウントすることはできないですが、貢献としての社内評価としてカウントすることはできます。評価が売上ではなく「売上+貢献=EC関与売上」となるわけです。こうした社内対立を防ぐ評価軸やKPIを取り入れることで、オムニチャネルは加速していきます。 カスタマージャーニーマップの重要性 顧客のブランド体験をどうカスタマージャーニー上で描くか オムニチャネルは企業が提供する各チャネルを跨いだ一貫性のあるブランド体験を提供する必要があります。そのためには、顧客のカスタマージャーニーを把握し、認知〜購入・体験、共有までの各フェーズごとの顧客の接点の理解、そこで生まれる一貫したブランド体験を構築する必要があります。つまり、顧客のブランド体験をどうカスタマージャーニー上で描くかが重要になります。また、顧客のカスタマージャーニーの各ステップごとにKPIを設定し、KPIの運用に活用することもできます。 カスタマージャーニーについてはこちらで解説しています カスタマージャーニーマップの重要性と作り方について徹底解説 モバイルデバイスの登場により、顧客の行動や感情、集客の販路は複雑化しています。 マーケティングの施策を打ち出す上で、顧客の購買行動を把握することは重要な項目です。 本記事では、マーケティング成果を出すために欠かせないカスタマージャーニーマップの作り方とカスタマージャーニマップを作る上で知っておくべき重要なポイントについて解説していきます。 オムニチャネル戦略の進め方 オムニチャネル戦略を推進していく上で、企業側の戦略的観点からどのように進めていくかについてご紹介します。オムニチャネルに顧客情報一元管理や在庫一元管理などの統合が欠かせないのはもちろんですが、いきなり顧客や在庫の統合からから始めても、自社の強みを戦略に反映できなかったり、体制が整っておらず停滞したり、部分最適化に終わったりと、オムニチャネル戦略を実現することができません。まずは、オンライン・オフラインの垣根を超えた組織や役割を構築し、現状の分析や戦略を立て、計画・実行することが大切です。 01.組織体制の構築 オンラインとオフラインの境界線をなくし、顧客にシームレスな購買体験を提供するには、組織を変革する必要があります。企業を変革するために、それを許容する仕組みや土台を整え、新たな企業文化を創造していきます。社内にオムニチャネル戦略を推進していく組織がなければ新たに新設します。オムニチャネルを推進する部署は、実店舗やオンライン事業部など部署間を横断し、それぞれの部門長とコミュニケーションがとれ、ある程度の権限を委譲された経営層直下の組織である必要があります。そして、実店舗などのオフラインやECサイトなどのオンラインまで、どちらの業務も理解できる人材であることです。オムニチャネルを推進するプロジェクトリーダーは、自社の主要な商いを熟知している人物を配置した方がいいでしょう。例えば、ECサイトからスタートし、ECサイトがメインの企業であれば、企業の強みや文化もオンラインがメインになるかと思います。その場合、ITスキルやデータ分析能力、Web広告やメールマーケティング、SNS運用など、自社の主要となる商いを熟知していない店舗運営などのオフラインが中心の人材では難しいでしょう。また、オムニチャネルを推進していくプロジェクトリーダーは、業界全体で人材不足の課題があるため、企業として育成・採用、もしくは足りない部分だけ実務を熟知する専門家と協力し進めていくことになります。しかし、コンサルに丸投げすると、社内にノウハウがたまらないので、あくまで協力し合うことが大前提です。 02.現状把握 自社の現状を把握するフェーズです。各部署のキーマンとなる人物へのヒアリングや主要となる数値の把握を行います。 現状分析の一例 ・社内の組織構造や商流、顧客の情報管理や在庫管理がどうなっているか?・部署ごとの他部署との連携度合い・関わりの把握。相互送客の施策や内部の連携など・部署ごとに抱えている現在の主な業務や課題、KPIの把握・これまでのKGI/KPIの指標、目標数値、達成具合の把握・自社の強みと弱みの把握・これまでのペルソナ設定・カスタマージャーニーマップの確認・自社のすべての保有チャネルの把握・タッチポイントごとに発生するデータの収集状況etc… 03.戦略立案 顧客分析、自社における内外の環境分析や競合調査などを実施した上で戦略立案します。 強みを活かしたビジネスモデルの構築・将来像の提示 オムニチャネルはシームレスな買い物体験を提供することはもちろんですが、いかに自社の強みを最大限に引き出して競争優位性を確保しながら、顧客体験を向上するかが重要です。強みを活かした上でのビジネスモデルの構築や将来像の提示が必要になってきます。オムニチャネルを戦略的にどのように推進していくのか、どのような世界観を打ち出していくかなど、考えることは多岐にわたります。顧客から見て商品やサービスの認知から購入・共有をカスタマージャーニー上でどのように描くか考える必要があります。例えば、ECサイトを中心にしていた企業がECサイトなどのオンライン上では、体験できない商品を実際に確認するという体験提供のため、ショールーム化した店舗を作るなど、オンライン・オフライン、両チャネルの優位性を生かし相関性のある施策を考えるべきです。それぞれのチャネルで別々の施策として考えるのではなく、チャネルを横断し、オンラインとオフラインをシームレスに繋ぐことで、企業(ブランド)として一貫性ある顧客体験の提供が可能になります。 ペルソナ設定、カスタマージャーニーマップ設定 オムニチャネルで最も重要なのは、全てのチャネルがシームレスで一貫した体験を提供することです。そのためにはペルソナ設定やカスタマージャーニーマップ設定などの顧客の購買行動を十分に理解する必要があります。チャネルを跨いで、顧客がどのように商品・サービスに興味・関心を持ち、購買に至るかのか、購買後の体験にはどのようなことが想定されるのか、顧客の購買行動をモデル化し、どのプロセスでどのチャネルを利用し、必要な施策・提供する体験は何なのか、課題は何なのかを明らかにします。カスタマージャーニーマップを策定すると、ユーザーの心理状態を予想しやすくなり、顧客起点の戦略を考えることに繋がります。 ペルソナ設定についてはこちらで解説しています ブランドを成功に導くペルソナ設定 新たな製品やサービスの開発、ブランドを再構築する際に、サービスを提供する企業側は、顧客を深く理解し、顧客のニーズを捉えたサービス体験を考えなくてはなりません。 その顧客のニーズを捉えるには、ペルソナ設定が必要不可欠です。 カスタマージャーニーについてはこちらで解説しています カスタマージャーニーマップの重要性と作り方について徹底解説 モバイルデバイスの登場により、顧客の行動や感情、集客の販路は複雑化しています。 マーケティングの施策を打ち出す上で、顧客の購買行動を把握することは重要な項目です。 本記事では、マーケティング成果を出すために欠かせないカスタマージャーニーマップの作り方とカスタマージャーニマップを作る上で知っておくべき重要なポイントについて解説していきます。 3C分析についてはこちらで解説しています 使い勝手良すぎるフレームワーク3C分析を伝えたい 今回は、マーケティングに携わる方であれば、一度は聞いたことがあるであろう3C分析についてお話しします。 「聞いたことはあるけど、どんなものなの?」「理解はしているけど、実務で使えるレベルにない。」そんな方に向けてこの記事をお届けします。 戦略立案後は、全社へ発表・周知し、共有しましょう。 04.ロードマップの作成 ビジネスにおいて何か新しい取り組みをはじめるなら、ゴールを明確に設定すべきです。ステップ3の戦略を基にロードマップを作成します。オムニチャネル戦略は全社規模の大プロジェクトとなるので、システムの導入や統合、社内評価やKPI、ビジネスモデルの見直し、再設定など、様々な変革が必要となり、複雑化しやすいです。「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行うのか明確にし、時系列でまとめ、関連部署で共有しておく必要があります。企業の特性や扱う商品・サービスによって、チャネルごとに有効となる施策や実施する部署が異なる場合でも、ロードマップがあれば、意思統一をしやすくなります。 05.チャネルの補完 自社が保有している様々なチャネルの中で、弱みとなるチャネルを強化します。オムニチャネルによりシームレスに連携したところで、弱いチャネルがあると効果が薄く、連動性も期待できません。例えば店舗からスタートした企業であれば、店舗に強みがありECサイトがチャネルが弱い場合、ブランド戦略に基づいてECサイトを強化しサービスレベルを店舗と同期していく必要があります。次のフェーズからは、大きなコストや時間も必要になるので、このフェーズでは、大きなシステム改修が不要な範囲でできることを前提としています。 06.顧客一元管理 ここからが本格的なオムニチャネル推進フェーズです。一つの部門だけではなく、全社単位で取り組むことになります。外部システムを活用して、様々なタッチポイントから顧客のデータを取得・統合・活用するプラットフォームを構築します。各チャネルごとに取得した顧客属性、購買履歴、行動履歴、ポイントなどの顧客データを一つのところにまとめることで、精度の高い顧客データを保有することができます。最終的なサービス提供での活用を考慮した上で、どの情報が必要か、どのシステムとの連携を行うかなどの設計が必要です。 07.フルフィルメント業務改革 物流改革/受注管理システム/在庫一元管理 オムニチャネルは、チャネル間の業務の受け渡しが発生するため、もともと別で運用していたチャネルをシームレスにする運用体制を構築する必要があります。例えば、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取る際など、在庫をどこから引き当てるかなど、業務フローが固まっていないとスムーズにサービスを提供できません。また、実店舗もしくはECサイトなどで品切れが生じた際に、各店舗、物流センターのどこに在庫があるかリアルタイムで把握し、最短期間で顧客に提供できるようにする必要があります。在庫一元管理するシステムを導入し、すべてのチャネルのどこにどれだけの在庫があるのか把握し、顧客のニーズに合わせて移動できるようにしておくことが求められます。 08.KPI・評価制度の見直し・再設定 オムニチャネルを導入すると、部門を跨いだ販売活動が行われます。スタッフがオムニチャネルを推進するためには、今までの目標(KPI)設定や評価制度のままでは、オムニチャネル戦略を実現することは難しいでしょう。各部署が協力し合える体制を構築するためには、KPIや評価制度の見直し・再設定が必要になります。ECサイトで購入した商品を店舗で受け取る場合や店舗から顧客の自宅に配送する場合など、売上計上をどの部門の実績とするかなどの評価制度を見直ししましょう。オムニチャネル戦略を実施するのであれば、オムニチャネル戦略を推進していくKPIの再設定や評価制度の見直しを行いましょう。独自のKPIを設定し、自社のノウハウとして蓄積できるかが、重要なポイントになってきます。 09.顧客体験(CX)向上の取り組み データを活用したパーソナライズされた顧客体験の提供 顧客一元管理で1つのところに収集した解像度の高い顧客データを分析・活用し、パーソナライズされた顧客体験を提供していきます。適切なタイミングで適切なサービスを提案することで、顧客満足度や顧客ロイヤリティ向上を目指します。施策の手法としては、ECサイトのパーソナライズやレコメンド/DM/店舗接客/プッシュ通知など多岐に渡ります。セグメントされた顧客に対して適切なマーケティング・アプローチをすべて手動で行うのは難しいため、MA(マーケティングオートメーション)を活用し、マーケティング活動を自動化・効率化しましょう。ユーザーニーズ、チャネルの特徴、自社の強み、戦略を把握した上で、最適なサービスを設計しましょう。ここがうまく機能しないと、最終的にはオムニチャネルによる成果は得られないはずです。オムニチャネルはあくまで手段で目的はこのフェーズの「顧客体験(CX)向上」です。 パーソナライズについてはこちらで解説しています パーソナライズドマーケティングとは?優れた顧客体験(CX)を提供するためのパーソナライズについて解説 マーケティングは不特定多数へ一方的に発信する「マスマーケティング」から、一人ひとりへ向けた「パーソナライズドマーケティング」へと変化しています。 パーソナライズでは、ユーザーの属性や興味関心に合わせた情報を届けることで、優れた顧客体験(CX)を提供することができます。 この記事では、パーソナライズを基本から知りたい方向けに、パーソナライズとは何か、パーソナライズを実装するメリットと注意点、ツールの導入やパーソナライズの導入方法などについて解説します。 シームレスで一貫した顧客体験の提供 店舗やECサイト、SNS、DMなど、様々なチャネルの垣根をこえて、どこから接触してもチャネル間のギャップを感じさせない、シームレスで一貫した顧客体験を提供する必要があります。例えば、ECサイトで購入し店舗や指定の場所で受け取りができたり、ECサイト上で店舗の在庫確認ができたり、ECサイト上でのこれまでの購入履歴がECサイトと店舗も含め一覧になっていたり、店舗とECサイトのポイントが一元化されていたり、店舗の商品をバーコードスキャンすることでECサイトへ移動し、商品の詳細な情報や口コミの確認ができたりなど、施策は多岐に渡ります。 10.PDCAを回す オムニチャネルが形になり、様々な施策を実行した後は、想定通りの効果が生じているかを定期的に検証する必要があります。複数チャネルを通して得られたデータをもとにテンポよくPDCAを回し、顧客満足度やブランド価値の向上を目指していくことが求められます。うまくいかない点があれば、PDCAを回して改善に努めましょう。 まとめ 本記事では多くの注目を集めているオムニチャネルについて解説しました。オムニチャネルは顧客からすると大きなメリットがあるものの、一朝一夕でできるものではなく、数年はかかる中長期的な戦略となり、物流投資・ IT投資、転換コストが必要になってきます。また、組織構造の見直しや社員の評価やモチベーションの維持など、オムニチャネル戦略の難易度は一段と増します。必ずしもお伝えしたフローで進めるわけではなく、自社のビジネスモデル、強みや弱み、サービス・商品の特徴など、様々な状況を考慮し、自社に合う形で変容させていくことが必要になるかと思います。簡単に行える戦略ではないですが、近年のサービスや商品開発が企業ベースのプロダクトアウトから顧客目線のマーケットインに変わっていったように、顧客体験の向上を考えた時、オムニチャネルが強力な戦略となると思います。 では、今回はこの辺で。

  • ナレッジ記事
  • マーケター・ディレクター
  • エンジニア
  • メインビジュアル

ネイティブアプリのコストを削減するクロスプラットフォームフレームワーク​

以前の記事ではスマートフォンアプリ開発手法の一つとしてハイブリッドアプリを紹介いたしました。今回の記事ではネイティブアプリの不利な点を軽減する開発手法、クロスプラットフォームフレームワークを紹介いたします。 ハイブリットアプリネイティブアプリWebアプリPWAコスト〇× → ※△~〇 ◎△機能性〇◎×△インストールしやすさ△△― ※インストール不要〇プラットフォーム依存リスクの回避〇× → ※×~△ 〇△※ クロスプラットフォームフレームワークを利用する場合 クロスプラットフォームフレームワークとは iOS, Android, Windowsなどの複数のOSに対して横断的(クロスプラットフォーム)に開発できる環境(フレームワーク)を指します。 従来の開発ではOSごとに開発に適した言語が異なるため(※1)、同じ処理内容をOSごとに別の言語で記述する必要があり、そのためにコストが増大していました。クロスプラットフォームフレームワークを利用することで多くの部分をOSによらず同じ言語で記述することが可能になり開発コストを削減することができます。 フレームワークが提供する範囲を越える機能が必要になる場合(外部のICタグリーダー機器との接続など)は、ハイブリッドアプリと同様に部分的にOSネイティブの言語で開発を行う必要があります。 2022現在では以下のものなどがあります。・Flutter・React Native・Unity 3D ※2・.Net Multi-platform App UI (.NET MAUI)・Kotlin Multiplatform Mobile (KMM) ※1 iOSではSwift/Objective-C、AndroidではKotlin/Java、WindowsではC#/C++/Cが一般的です。※2 本記事はスマートフォン向けの業務アプリ開発を主軸に据えるため、以降の本文ではUnityは扱いません。ゲーム開発向けフレームワーク(ゲームエンジン)であるUnityは、音声再生の遅延の少なさや画面描画の素早さ、UI操作に対するレスポンスの速さなどに定評があります。 各プラットフォームの特徴と評価  FlutterReact Native.Net MAUIKMM開発会社GoogleFacebookMicrosoftJetBrainsコスト〇〇~△△△言語DartJavaScript, TypeScriptC#Kotlin言語に対する開発者の多さ△◎〇〇~△開発者コスト・習得難易度〇JavaScript:◎TypeScript:〇~△〇~△△~×UI作成コスト◎〇~△〇~△× Flutter 特徴 DartというJavaScriptとJavaの長所を組み合わせた言語を使用します。比較的習得が容易ですが、スマートフォンアプリ以外の開発では利用されない言語のため開発者が少ない傾向があります。UI部分まで独自に提供しているためOSごとの差分が必要な個所が少なくコストが抑えられます。その反面、各OSのUIの一般的な操作感とは、ずれが出ることがあります。 評価 他の開発環境との共通点が少ない(既存のコード資産を利用できない)という特徴がありますが習得難易度が低いことから新規に手早く開始するのに向いています。小規模アプリ、プロトタイプ開発、サーバー-クライアント系でクライアント実装が薄いものに向いていると考えられます。 React Native 特徴 JavaScriptやTypeScriptというWebアプリの開発で一般的な言語を使用します。開発者の母数が多く、日本語による技術情報も豊富に見つかります。UI部分は、フレームワークとしてはOSごとに記述する必要があります。ですが豊富に公開されているオープンソースのUIコンポーネントを利用することで処理を共通化してコスト削減が可能です。 評価 開発者の確保が容易なことが最大の長所です。その反面、成果物の品質にばらつきが出やすいため、コード規模が増大する前にTypeScriptを導入することをお勧めします。 .Net Multi-platform App UI (.NET MAUI) 特徴 XAMARINというフレームワークの後継です。C#というWindowsアプリ開発で一般的な言語を使用します。UI部分は、独自に提供しているUI部品とOSごとに作成が可能な仕組みとの両方が提供されています。 評価 スマートフォンだけではなくWindowsデスクトップアプリも開発する案件にお勧めです。Microsoft社が開発元のため、突然フレームワークの開発が終了するなどの長期サポートリスクが低いと考えられます。 Kotlin Multiplatform Mobile (KMM) 特徴 2022年10月にベータ版が公開されたばかりのフレームワークです。ロジック部分はKotlinというAndroid開発で一般的な言語を使用します。UI部分は、iOSではSwift、AndroidではKotlinというようにOSごとに別に作成する必要があります。 評価 ベータ版の段階のため判断が難しいです。Kotlinという言語は熟練した開発者にとっては開発効率が高いですが、習得難易度が相対的に高いです。このため交代要員や増員の確保に困る場合があります。また、定番と言える設計モデルや適したライブラリが確立していないため初期コストは高めと考えられます。 まとめ 現段階では、どのプラットフォームもそれぞれに長所があり、会社の状況により適したフレームワークが変わります。このため自社の既存コード資産や開発者の得意言語に応じて選択することになります。 付録 海外のクロスプラットフォーム開発動向 元資料: Stack Overflow Developer Survey 2019~2022 注目ポイントFlutter/Dartは開発者からの評価が高い(※)が、主要なクロスプラットフォーム/言語の中では給与が最も安い。給与水準は習得難易度の低さを表しており、上昇率が高いことは十分な品質の製品を開発できることを示していると考えられる。 ※ 項目 Technology - Most loved, dreaded, and wanted より※本項の表はフレームワークと言語で抽出したものであり、スマートフォンアプリ開発者に限定したものではありません。例えばC#はデスクトップアプリ開発にも利用されます。 スマートフォン向けクロスプラットフォームの開発者動向  開発者割合(%) ※1開発者給与(米ドル) ※2フレームワーク201920202021202220212022Flutter3.26.613.3512.5632,42942,657 (31.5%増)React Native10.811.816.4813.6244,16054,000 (22.3%増)Xamarin6.56.04.17※35.5451,70463,384 (22.6%増)Cordova7.46.48.674.7239,19249,232 (25.6%増)Unity 3D9.18.77.03※38.19※345,39659,327 (30.7%増)※1 項目 Technology - Most popular technologies の Professional Developers より※2 項目 Technology – Top paying technologies より※3 分類が Other frameworks and libraries ではなく Other tools に移動 スマートフォン向け言語の開発者動向  開発者割合(%) ※1開発者給与(米ドル) ※2言語201920202021202220212022Dart1.83.75.976.6732,98643,724 (32.6%増)JavaScript69.769.768.6267.954,04965,580 (21.3%増)TypeScript23.528.336.4240.0859,17270,276 (18.8%増)C#31.932.329.8129.7258,36869,516 (19.1%増)Kotlin6.68.09.099.9255,07169,318 (25.9%増)Java39.238.434.5133.451,88864,572 (24.4%増)Swift6.86.15.645.1858,91078,468 (33.2%増)Objective-C5.2-3.332.6964,85983,165 (28.2%増)※1 項目 Technology - Most popular technologies の Professional Developers より※2 項目 Technology – Top paying technologies より Kotlin Multiplatform Mobile (KMM)についてのエンジニア所感 Kotlin言語はAndroid開発における標準的な言語であるため、Android開発を主に行ってきた会社では導入しやすいと考えられます。 近年AndroidやiOSのネイティブ開発ではJetpack ComposeやSwiftUIという宣言型UI部品が出てきてUI開発が容易になりました。特にAndroidでは公式にMVVMという設計モデルに適した部品(ViewModelクラス)も用意されています。しかしJetpack Composeの ViewModelクラスはKMMフレームワークを使う場合は同じ部品が使えず、また、宣言型UI部品を使う場合はViewModelクラスは適切ではないとの意見もあり、まだ定番と言える設計モデル及び対応ライブラリが出ていません。(とは言え独自に設計を練って導入を行った会社もあります) 推奨される設計モデルがどう変わってゆくかと合わせて今後の動向が気になるフレームワークです。 Webアプリ開発の今後 JavaScriptの代替としてWebAssemblyという技術が出てきています。スクリプトデータからバイナリデータに変わることにより、処理性能が向上し、転送データサイズが縮小されています。また、近年はLLVMというコンパイラのおかげで多くの言語でWebAssembly開発ができます。 性能が上がり開発言語の自由度が広がったことから、今までよりもWebアプリが選択肢に入りやすくなったと考えられます。

  • ナレッジ記事
  • マーケター・ディレクター
  • メインビジュアル

ブランドを成功に導くペルソナ設定​

新たな製品やサービスの開発、ブランドを再構築する際に、サービスを提供する企業側は、顧客を深く理解し、顧客のニーズを捉えたサービス体験を考えなくてはなりません。その顧客のニーズを捉えるには、ペルソナ設定が必要不可欠です。ペルソナ設定により、顧客への深い理解ができ、明確な根拠に基づくブランド戦略を立てることができます。今回はそのペルソナ設定のメリットや設定方法についてお話しします。 ペルソナとは? では、まずペルソナとはなんなのか。ペルソナとは自社の製品やサービスの典型的な顧客モデルのことです。簡単に言うと、ターゲットをより「具体化した人物像」です。ペルソナと似たキーワードにターゲット設定があります。ターゲット設定とペルソナ設定は似ているようですが、違うものです。ターゲット設定とは、年代/男女/既婚未婚/職業/年収などの全体を属性でセグメントしたものです。例えば、「20代の既婚者女性」などです。一方ペルソナ設定は、20歳から25歳までの女性で、結婚していて子供がいるなどの家族構成や住んでいる地域、性格や趣味嗜好、普段の生活スタイルや使っているSNSなど、細部まで深掘りします。つまりペルソナとは、ターゲットの中でも「ピンポイントで具体的な人間」を指します。ペルソナ設定はターゲット設定よりも、より深堀した手法なのです。 では実際にペルソナ設定のイメージを見てみましょう。こちらは不動産賃貸を借りる男性のペルソナ設定イメージです。(実際のペルソナ情報を掲載できないため、あくまでイメージになります) ペルソナ設定のメリット 戦略の方向性が見えてくる ブランドの売り上げを最大化するためには、誰にどのような体験を提供するのかという方向性を具体化する必要があります。想定するペルソナが明確になれば、事業戦略やプロモーションの方向性が定まり、迅速で的確な戦略策定に繋がります。例えば、ペルソナの行動パターンを基に、どういったコンテンツをどこでいつ発信し、どのくらいの費用を投資するべきかなどの戦略の選択も明確になります。ペルソナを設定することで根拠のあるブランド戦略を立案できます。 ユーザーのニーズを捉えたアプローチができるようになる 変化の加速する現代市場では、さまざまな商品やサービスが溢れており、それに伴い顧客のニーズも多様化しています。ペルソナ設定をすることにより、ターゲット像を細部まで設定することで、その人の生活がイメージしやすくなり、抱えている問題やニーズを発見しやすくなります。その結果、例えばコンテンツや広告での訴求方法の立案や商品・サービス開発への応用など、ユーザーニーズを捉えたアプローチができるようになり、売上最大化や顧客満足度の向上へと繋がっていきます。 担当者間での認識の共有が容易になる ペルソナを設定することで、制作者の好みや勝手なイメージ、バイアスに左右されることなく、ユーザー視点の議論や意思決定ができるようになります。例えば、ターゲットを「30代既婚者男性」と設定したとします。このような曖昧なターゲット像だとプロジェクトメンバーの頭に浮かぶ対象は、それぞれのバイアスやイメージなどにより、ズレが生じてしまいます。ペルソナを作成することで、ターゲットのズレや認識違いを防ぐことができ、組織内で意見の統一が図れます。プロジェクト戦略をスムーズに決定でき、円滑に制作を進められます。 CX/UX/UIの向上が実現する 近年IT業界でトレンドにもなっている、CX(カスタマーエクスペリエンス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)、UI(ユーザーインターフェース)を重視した企業の取り組みは、顧客(ペルソナ)を深く理解しなければ、実現しません。顧客視点でのサービス体験やサービスの使いやすさなど、万人受けするサービスは基本的にはありません。わかりやすい例を話すと、ご年配の方には使いやすいスマホなどは若者にはニーズはないでしょう。そのように多様化するニーズ全てを満たすのではなく、戦略的にある特定のニーズをピンポイントで満たす必要があります。現代のマーケティングを成功させるためにはペルソナ設定は必要不可欠と言えるのではないでしょうか。このペルソナ設定により、より根拠に基づいた制作が可能になります。 ペルソナ設定の方法 市場→ターゲット→ペルソナの順に大きな枠から狭くしていくイメージでペルソナを絞っていきます。市場の分析については3C分析の記事を活用してください。 3C分析についてはこちらから 使い勝手良すぎるフレームワーク3C分析を伝えたい 今回は、マーケティングに携わる方であれば、一度は聞いたことがあるであろう3C分析についてお話しします。 「聞いたことはあるけど、どんなものなの?」「理解はしているけど、実務で使えるレベルにない。」そんな方に向けてこの記事をお届けします。 1.顧客をセグメントし、ターゲットを決める ポイントとしては、ターゲットが広すぎると分析が広くなりすぎますし、逆に狭すぎると分析範囲が足りなくなるので、注意しましょう。メインターゲットとサブターゲットがあればサブターゲットも定義します。サブターゲットが複数出てきた場合、ひとまとめにサブターゲット扱いにすることも考えます。メインターゲットが20代女性で、サブターゲットが20代の男性の場合、サブターゲットも意識しないといけないので、20代女性だけに向けたデザインに振り切ることができない。ただし、サブターゲットを強く意識しすぎる必要はないです。あくまでもメインターゲットが一番のターゲットなので。ターゲットを決める際に、どういったセグメントでターゲットを設定するかは、マーケティング担当者からのヒアリングやそもそもサービスを提供する上での大まかな狙っているターゲットなど、様々な要素を考慮してセグメントします。 顧客のセグメント方法 顧客をセグメントしターゲティングしていく際の考え方・切り口をどこにするか。様々な考え方・切り口があるので、下記に例を紹介します。 ●性別/年齢でセグメントする年齢・性別でセグメントするのが一番多いパターンではないでしょうか。全ての年齢・性別に当てはまる商品はあまりありません。 ●属性でセグメントする住んでいる地域/業種・職種/未婚・既婚・子供の有無/同居家族/年収関西だけの商品なら関西地域でセグメント、事務職向けのサービスなら事務職向けなど。 ●価値観・行動でセグメントするジムに通うアスリート系とインドアで読書が好きな人など、価値観・行動でセグメントします。 ●商品に興味を持っているかいないかカスタマージャニーのファネルのどこに当たる人物なのか。認知の有無/興味の有無/1度購入した後のリピートの有無など。 ●商品の利用状況商品を利用中なのか、利用中止中なのか、利用経験なしなのか 2.セグメントしたターゲットのボリューム・市場規模を把握する ターゲットの市場規模を知ることで戦略が変わってきます。大規模な市場なのか、小規模な市場なのか、ニッチなのか。商品を売る時のボトルネックや投資できる金額も変わってくるので、市場規模を把握しましょう。 官公庁(総務省統計局)データからターゲットのボリュームを推計する。 セグメントした時に年齢・性別・居住地域でセグメントをしている場合、総務省統計局の人口推計データで算出できます。https://www.e-stat.go.jp/例)全国の30代男性使用するのは、総務省統計局の「人口推計」と「国勢調査」の2つです。人口推計/毎年・毎月の人口状況がわかります。国勢調査/5年に1回なので、タイムラグがありますが、家族構成や就業状況、配偶関係などの詳細がわかります。 スクリーニング調査・本調査を実施し、切り口となっている割合を調べる スクリーニング調査とは、母集団の中から調査対象者の条件抽出をするために、本調査に先駆けて行う事前調査のことです。 出現率とは、特定のある条件に合致する人がどのくらいいるのかを表す数値です。本調査対象者を抽出するために行うのが、このスクリーニング調査です。ターゲットとなる人口(年齢・性別・居住地域)ボリュームを算出し、残りのセグメントの切り口を掛け合わせることでセグメントしたターゲットのボリューム・規模を把握することができます。その為には、残りの切り口となっている人の割合を調べる必要があります。仮に全国の20代女性でセグメントし、切り口は商品をまだ認知してない層だとする。全国の20代女性の約610万だとする。本調査の結果、商品をまだ認知していない人の割合が50%だとわかるとする(出現率50%)50%がターゲットならターゲットのボリュームは約305万になる。また、スクリーニング調査をする際、性別・年代が均等でないという歪みが起こりがちです。市場実態そのままを表していない可能性があるので、要注意です。なぜそうなるのかというと、全国の20代女性と20代男性の数は均等ではありません。調査で集めた母集団の男女比率が実際の全国の男女比率と合わないからです。したがって年代別の割付をして、データが歪まないように設計する必要があります。しかし、コストがかさんでしまうので、スクリーニング調査自体は割付は気にせずに行うことが多々あります。割付を気にせずにスクリーニング調査をする際には、国勢調査で実際の性別・年代などの分布を後から性別・年代の構成比に合わせて重み付けをするウェイトバック集計をする方法がよく使われます。単純な年代や男女での比較であれば、均等割付で問題ないですが、全体の傾向・実態を知りたい場合は、全国の人口比に合わせて性別・年代別の人数を割付します。ここのスクリーニング調査について、この記事内で全てを伝えるのは難しいので、色んな記事や書籍などで調べてみてください。実際にスクリーニング調査するには、調査会社やサービスを利用することになるかと思います。 3.ターゲット・プロファイル セグメントしたターゲットの年齢・性別・職業・趣味といった属性から、どんなマインド・ライフスタイルを持っているのかまで、集団の特徴を定義する。そのことで、ターゲットへのアプローチ方法や適切なセールスポイントを見つけることができます。 ターゲット・プロファイルの調査・分析方法 定性調査や定量調査を使い、ターゲットの価値観や行動、意識をヒアリングしながらインサイトを探していきます。最近はオンラインで定性調査や定量調査を行えるサービスもあるので、そちらを活用するのも一つの手です。分析する際には、ターゲットの価値観・意識・行動の特徴を洗い出しましょう。価値観・意識・行動の特徴がわかるとターゲットのインサイトが把握しやすくなり、ターゲットをより深く理解することができます。また、価値観・意識・行動の中に新たなビジネスチャンスや新たな施策の発見があるかもしれません。 4.ペルソナの設定 いよいよここから本題のペルソナ設定です。ターゲットの中から誰をペルソナにするか。 ペルソナ設定の決め方 1.プロジェクトメンバーで簡易ペルソナの案を持ち寄るリリースしているサービスの場合、現在の既存のお客様、今後増やしていきたいお客様などが考えられます。簡易ペルソナ案を作成する際、どんな人物像か?どんな価値観に惹かれるのか?など人となりがわかるようにします。プロジェクトメンバーだけではなく、お客様と接点のある方やそのサービスの有権者の意見も参考にします。 2.集めたペルソナを分類し、分類したペルソナからどのペルソナにするか選択する・実際に来ているお客様に近いペルソナはどれか・売上アップに重要だと考えるペルソナはどれか・今後増やしていきたいペルソナはどれかなど、さまざまな判断基準をもとにペルソナを選択します。 3.ペルソナの詳細を考える定性調査(場合によっては定量調査も行う)による、グループインタビューやデプスインタビューを行い、価値観を深堀していきます。また、情報収集方法として、ペルソナのライフスタイルやトレンドを知るには、ペルソナに設定した人に限りなく近い人のSNSを観察する、読者設定が明確な雑誌を読むなどの方法もあります。 ペルソナに必要な情報の一例 ・性別/年齢/職業・役職/住まい/家族構成(恋人の有無・未婚・既婚)/年収/趣味/性格・日常の行動パターン/情報収集(営業を担当していて移動中の空き時間を利用して情報収集をすることが多いからスマートフォンを活用するなど、大切なのは、行動ではなく「行動を起こす理由や動機」)・ストーリー(背景)・サービスとの関わり・デジタルプロフィール(よく利用するWebサイト、アプリ、SNSと利用頻度、所持しているデバイス)・サービスを通したゴール・生活リズム(起床・就寝時間、通勤時間・仕事始まりと終わり時間など)・休みの日の過ごし方・抱えている課題や悩み、チャレンジしたいこと・キーワードどんなペルソナの内容にするかはサービスによっても変わってきますので、サービスに合わせてどんなペルソナにするか決める必要があります。 ターゲット・ペルソナの情報収集方法について ターゲットやペルソナの情報を収集する際の様々な方法をご紹介します。●顧客と接点のある営業担当者へのヒアリング●既に保有している顧客情報の確認(顧客アンケート・お客様の声/GA/CDP/DMP/店舗などのオフラインデータなど)●ネットリサーチ(口コミサイト/SNS/ポータルサイト/キーワード検索)●リサーチツールを使った定量調査・定性調査ミルトーク/https://milltalk.jp/Questant/https://questant.jp/Survey Monkey/https://jp.surveymonkey.com/●顧客へのデプスインタビュー●ウェブサイトのフォームで集計をとる●提供するサービスに関して知識の豊富な有権者へのヒアリング●調査会社に依頼する BtoCを想定したペルソナへの質問の一例 ・年齢/家族構成/住居/趣味/性格/仕事(役職)/年収/好きなブランド・情報を探すきっかけは?手段は?・日常でのサービス・商品の情報収集方法は?(時間・場所・デバイス)・どんな情報を探していますか?・どこでサービスを初めて知りましたか?・サービスにどんなイメージを持っていますか?・サービス選ぶ上で重要なこと、大事にしているとこはどこですか?・購入頻度/リピートしたいかと理由・購入前にどんな不安があったか・購入に至った動機にはどんなものがありましたか?・購入に至らなかった動機にはどんなものがありましたか?・購入するにあたり相談する人はいますか?・購入を検討する際に必要としていたデータはありますか?・どこで購入しましたか?・サービスの理解度について・サービス・商品の活用方法は?・他社と比べてどういった点にメリット・デメリットを感じたか・比較・検討する際はどこを比較していますか?・購入後に良いと感じた点、不満点はありますか?・購入後サービスとの繋がりはありますか?どんな繋がりを求めていますか?・企業にどんな情報発信を求めますか?・将来期待するサービスは?・検索キーワードと日常で使うキーワードについて ペルソナ設定する際のポイント 属性よりもその人がどう考えるか、どんな悩みがあるのかなどのインサイトやどういう行動をとるかを知ることが大切です。・どんな悩み・欲求があるのか。何に困っていてどんなニーズがあるのか・意識・感情はどうなのか。どんな基準で何を選ぶのか・どんな行動を取るのか・接点/どんなタッチポイントがあるのかこれらがわかるとセールスポイント・施策が見えてきます。 ユーザーの本質的な悩みや欲求を理解するには、ユーザー自身も気づいていないインサイトを見つけることが大切です。ユーザーのインサイトを見つける為に推論できる情報を集めましょう。なぜ商品を購入するかしないのか、なぜサービスを利用するのかしないのかの結果の原因を調べます。ポジティブな意見やネガティブ意見どちらも吸い取り、なぜ、その結果になったのか。その状況になった原因を推論します。直接的に見えている意識や行動だけであれば、誰でも気づきやすく、どこの企業も似たものになります。洗い出した様々な要因から共通のメカニズムから顧客も気づいていないインサイトを見つけることが大切です。阻害要因と促進要因を合わせて整理し、どちらの根源的になるものがあれば、それが一番大きな核になることが多いでしょう。ユーザーの本質的な悩みや欲求を理解し、ユーザーにとっての理想的なゴールを設定できれば、解決策(戦略)を見つけることができます。解決策(施策)は1つではなく、複数出てくることもあるかと思います。様々な解決策の中からユーザーのインサイトを深堀し、本質的な解決ができる戦略を立てることが重要です。 ユーザーの「悩み・欲求」を探す際に、手助けするアプローチがあります。スティーブンリース博士による、『16の基本的欲求』です。「悩み・欲求」を探す際のヒントになるでしょう。・力/他人を支配したい・独立/人に頼らず自力でやりたい・好奇心/知識を得たい・承認/人に求められたい・秩序/ものごとをきちんとしたい・貯蔵/ものを集めたい・誇り/人としての誇りを求める・理想/社会正義を追求したい・交流/人と触れ合いたい・家族/自分の子供を育てたい・地位/名声を得たい・競争/競争したい・ロマンス/セックスや美しいものを求める・食/ものを食べたい・運動/体を動かしたい・安心/心穏やかにいたい 5.ペルソナを動かしカスタマージャーニーマップを作成する ペルソナがどんな意識でどんな行動をし、タッチポイントは何があるかなど、ペルソナを仮想的に動かし、カスタマージャニーマップを作成します。今回ペルソナについての記事になるので、カスタマージャーニーマップについては割愛します。また、カスタマージャーニーマップについては、別の記事で伝えていけたらと思います。近年のIT業界のトレンドでバスワードにもなっているOMOやオムニチャネルを実施するのであれば、カスタマージャーニーマップの設定は必須になってきます。 カスタマージャーニーについてはこちらで解説しています カスタマージャーニーマップの重要性と作り方について徹底解説 モバイルデバイスの登場により、顧客の行動や感情、集客の販路は複雑化しています。 マーケティングの施策を打ち出す上で、顧客の購買行動を把握することは重要な項目です。 本記事では、マーケティング成果を出すために欠かせないカスタマージャーニーマップの作り方とカスタマージャーニマップを作る上で知っておくべき重要なポイントについて解説していきます。 オムニチャネルについてはこちらで解説しています 小売業におけるオムニチャネル戦略について徹底解説 近年、ECサイト、アプリ、SNS、実店舗など、顧客との接点となるチャネルを連携させアプローチする「オムニチャネル」というマーケティング戦略が注目されています。 本記事では、「オムニチャネルは聞いたことはあるけど、実施するためにはどうしたらいいの?」という方に向けてオムニチャネルについての説明とメリット、実施するための課題について詳しくご紹介します。 まとめ 一昔前の事業戦略は、プロダクトアウトという考え方が主流でした。プロダクトアウトとは、商品開発や生産、販売活動を行う上で、顧客のニーズよりも企業側の理論を優先させることです。作り手がいいと思うものを作るという考え方です。しかし今の時代、商品や広告が世の中に溢れており、顧客のニーズも多様化してきました。その背景に強く影響を受け、作り手がいいと思うものだけを作っていては売れない時代です。今求められるサービスは、顧客の立場に寄り添いながら、顧客が必要とするモノ(ニーズ)を提供することです。その顧客のニーズを深く理解するためには、ペルソナ設定が必要不可欠になってきます。本記事の「ブランド戦略におけるペルソナ設定」が少しでもあなたのペルソナ設定の手助けになればと思います。それでは、今回はこの辺で。

  • ナレッジ記事
  • マーケター・ディレクター
  • メインビジュアル

結果を出すためのKPIの作り方について考えてみた​

今回の記事では、「結果を出すためのKPIの作り方」について考えてみました。この記事だけで全てをお伝えするのは難しいですが、KPI設定をする際の軸となる考え方をお伝えするので、KPIの本質を理解する手助けになれば思います。 KPIとは何か KPIとは「Key Performance Indicator」の頭文字を取ったもので「重要業績評価指標」と訳されます。簡単にいうと「事業がうまくいっているかどうかを見える化した数字」と言えます。業務の遂行度を定量的な数値で測定でき、KPIの数値が目標を上回れば成功です。KPIと合わせてよく取り上げられる言葉に、KGIとKSFがあります。KGIとは「Key Goal Indicator」頭文字を取ったもので、「重要目標達成指標」と訳されます。簡単に言うと、「最終的な経営目標(ゴール)」です。KGIもKPIと同じように、定量的な数値で測定でき、KGIの数値が目標を上回れば成功です。KSFとは「Key Factor for Success」の頭文字を取ったもので「重要成功要因」と訳されます。これは「事業を成功させるための鍵」となる要因のことです。図に表すと下記のようなイメージです。 KPIの数値が目標に到達しているのにKGIが達成できないのであれば、KPIの設定を見直す必要があります。KPIがうまくいっているのであればKGIもいい数値になる。KPIがうまくいってなければKGIも悪くなるといった感じでKPIがKGIと連動していないと意味がありません。日々の業務でKPIの達成に向けて努力し、目標を達成しているのに、KGI(最終目標)が達成できていないのであれば、意味のない努力になってしまいます。 KPIの本質とは? KPIは事業戦略・コンセプトや想いと連動していることが大切です。事業目標の達成に向けて、無駄なく行動し、ビジネスを加速させるエンジンにし、その進捗を測定・評価し、改善していく。KPIが事業戦略と連動してないのであれば、それはKPIではなく、単なる成果指標の言い換えに過ぎません。KPIは事業戦略の意味合いが含まれます。戦略は何をやり何をやらずに置くべきかということを決定することになります。良さそうだと思える施策を全てやることは不可能です。事業戦略と連動したKPIにより、何をやり、何をやらずに置くかが見えてきます。具体的な施策や活動を社員の自立的なアクション・日々の工夫だけに任せするのではなく、自社ならではの戦略を見つけ、仕組みを作り組織全体で注力していくが大切です。 KPIの立て方 それではここから実際にKPIの作成フローについてお伝えします。 1.企業の現状を理解する まずは、現状の事業計画やビジネスモデルを確認し、自社・競合・ユーザーのことを理解しましょう。確認項目には、下記のようなものがあります。ターゲット・ペルソナ/コンセプト・USP/カスタマージャーニーマップ/事業計画書/ブランド指針/資金繰り表/経営方針/理念/競合のこと/今までの集客方法・顧客獲得方法/広告出稿/KPIの達成度合い/ユーザーからの評価 etc 2.事業戦略の確認・設定 事業戦略を作成していないのであれば、事業戦略を作成しましょう。KPIと事業戦略を連動させることが大切です。また、どんなユーザーに来訪してもらいたいか(ターゲット)、ターゲットに伝えたいUSPはなんなのか、そのためにどんな行動をして欲しいか(=シナリオ)を明確に定義してあげる必要があり、それを考える事自体がKSFの検討に繋がります。 3.KGIを設定する 売上、粗利益、営業利益、市場シェア率などが設定されることが多い傾向にあります。収益を目的とした事業の場合は、売上や利益などを設定することが多いですが、事業の目的が非営利的な活動の場合(CSRや社員の健康維持など)は、財務的な指標でないこともあります。また、KGIの設定数は1つにしましょう。複数あるとその配下のKSFやKPIが複雑化しすぎることになります。事業部署ごとにKGIを設定して、事業ごとにKGIの達成を目指すことはよくあります。 注意するべきKGIの例 売上高/コストを計算しないので、コスト削減の活動がなく、売上高を上げるために無駄なコスト使う可能性があります。売上高を選択する場合は、発生するコスト・固定費がほぼ一定で改善の余地が少ない場合は問題ないでしょう。 粗利益/事業単位のKGIで選ばれやすい指標です。粗利益は販管費(人件費・広告宣伝費)を含まないので、販管費に変動がある事業では危険です。なぜなら販管費を考えないなら雇用する人さえ増やせば達成してしまいます。(例/コンサル会社など)他の収益のポテンシャルのある事業が過小評価されてしまいます。 市場シェア率/競合に左右されるため外部要因が多く見えない部分が多い。競合の詳細まで掴むのは難しい。 4.KSFを設定する KGIを達成するために事業戦略を加味した、あるべき状態(KSF/重要成功要因)を作りましょう。あるべき状態とは、ユーザーがこのような状態になれば、事業は成功するだろうというような状態です。ユーザーはこんなことに悩んでいて、こんなものを求めているから、こういったものを提供し、ユーザーが求める「あるべき状態(成功要因)」にしてあげます。ユーザーの阻害要因を解決でき、促進要因になるKSFの仮説を考えましょう。あるべき状態の例)第三者から特別な評価を得ている状態にする→「〇〇率世界ナンバー1」など。KSFは1つだけとは限らないですし、中期的なものから短期的なものどちらもあってもいいです。 KSFを設定する際のポイント 成功した他社の事例を真似してもKSFではなく、自社の事業戦略からKSFを見つけることが大切です。常に自社の事業戦略やKGIと連動できているかを考えます。もともと高いスコアを出している項目だと伸ばすのが難しいことも考えておきましょう。事業戦略そのものが自社・市場(顧客)・競合などのステークホルダーを分析した上で、差別化されたコンセプトという大前提です。外部要因を受けやすい項目をKSFに設定すると、KSFの目標を達成してもKGIが達成できないとなる可能性があるので、外部要因を大きく受けるものは避けるべきです。KSFの達成をすることでステークホルダーへの影響を考えます。その指標が良くなってもその他の部分で大きなマイナスをもたらしては意味がない。繋がりを意識します。例えば、売上だけにフォーカスを求めると顧客のことを考えず、クレームや継続率の低下に繋がります。ありきたりなKSFやKPIではなく、独自性のあるKSF・KPIを考える必要があります。事業計画の意図を汲んだKSF・KPIはビジネス加速させることができます。クライアントの主要人物を集めて議論し、KSFの設定に活かしましょう。初めは推論的になるので、いつくか持ち寄り議論し、慎重に比較・検討する必要があります。また、KSFとKPIは必ず仮説を立てましょう。仮説を立てることで成功した時、失敗した時の原因分析がわかりやすくなります。 5.KPIを設定する あるべき状態(KSF)を作るために必要なKPIを考える。本当にKSFに貢献できるかが重要です。KPIは行動を促すものにするべきで、目標であり、達せすべき任務だと自覚してもらいましょう。KPIは一度で完璧にする必要ななく、複数個作った上で、実際に測定・評価し、KSFに寄与しているものを選択し、運用・改善していきます。 注意すべきKPIの例 KPIを設定する際に注意すべきことは、KPIは業種やサイトの種類で決めるのではないということです。よくあるのは、「ECサイトだから客単価や一人当たりの購入回数(リピート回数)、CVRや購入頻度にしよう!」など業種やサイトの種類で決めてしまうことです。このようなKPIを安易に設定しがちですが、KPIはサイトの性質で決めるものではありません。競合と同じものさしで戦っては、競合よりも圧倒的なリソースや優位性がなければ勝てません。企業がどこに向かっているか、事業計画や企業戦略など今後の方針を踏まえたKPI設定をすることが大切です。ビジネスに王道がないようにKPIにも王道はありません。KPIは、自社ならではの事業戦略と連動したKPIであるべきです。また、KPIは簡単に取得できる状態である必要があります。KPIの数字を調べるのに時間を使わないようにしましょう。 SMARTモデルを使いKPI設定を確認する 設定したKPIが下記の項目を満たしているか確認しましょう。・Specific(具体的)/具体的で明確なKPIになっているか・Measurable(計測可能)/KPIは定量的で計測可能なものか・Achievable(達成可能)/現実的に達成可能なものか・Relevant(関連した)/KGIやKSFとの関連性はあるか・Time-bounded(期限を定めた)/KPIに期限は設定されているか 6.KPIを達成するための施策を考える KPIを達成するための施策を考えます。例えば、ECサイトで商品詳細ページからカート投入率が低い場合。 商品詳細ページの商品情報の表示項目を足りているか/送料などを含む総額が明確か / いつ届くか明確か / 在庫切れなどないか / カートボタンが分かりにくくないか / 他の商品やカテゴリへの導線はあるかなど。  KPIの施策には様々な切り口があります。 下記は一例ですが、参考になれば・・・・仕組みを変更・新設する(インセンティブ・表彰制度・業務プロセス・ツールなど)・ターゲットへの訴求活動(セールス活動・セミナー・オンライン説明会・トライアル・イベント・サンプル提供・広告など)・商品内容の変更(商品形態・パッケージ・グラフィックなど)・伝達・関与(口コミ・SNS・友人紹介・会員制・オンラインコミュニティ・アンケート・インタビュー)・導入促進を促すアクション(ポイント・プレゼント・クーポン・トライアル・業務改善支援・研修・講師派遣)KPIの施策をすることでKPIの数値が改善されることはもちろんのことKSFに貢献できるか、事業戦略と連動できているかを念頭に考えましょう。 7.KSF・KPIのストーリーを作る KSF/KPIのそれぞれが波及効果で繋がり、相乗効果を与えられているかを考えます。どこから着手するべきかなどの順序が立てやすく、全体像を理解した上で施策を行えるので、今やっている施策がどのような波及効果をもたらすのか理解しやすくなります。繋がり(波及効果)の弱い部分はどこか、さらに波及できないか、弱い部分を補強するためのアクションがあるか。ネガティブ要素があれば、その要素をどう対策するべきか考えます。核となるKPIが弱く、それを補強できないなら、質の悪いストーリーとなり、再度KSF/KPIを作成する必要があります。 ストーリーの作成手順 1.ストーリーのタイトル(戦略コンセプト)を作る。(最後につけてもOK)2.KGI/KSF/KPIをマップの適当な位置に置く一旦配置し、作成していく中で、配置が変わっても大丈夫です。3.波及効果でそれぞれを繋ぎ合わせ中心となるストーリーを作っていきます。1つの要素から波及する項目は1~3個くらいにしておきましょう。多すぎると複雑化し過ぎます。4.ストーリーの肉ずけをする5.クライアントへ提示し議論する自分では見つけられないことなど、新たな発見があるかもしれません。ストーリーとして弱い部分はないか?おかしなとこはないか?それがあれば、そこを解消するにはどうしたらいいかの議論します。KSFの一部分が弱いなら補強するKPIを考える、KPIの波及効果が弱いならKPIを考え直す、波及効果が弱いなら補強するKPIを考える、新たな阻害要素が出てきたら補強できるKPIを考えるなど。 8.測定する指標の設定と測定手法の決定と測定期間の設定 KSF(あるべき状態)とKPIに測定可能な指標を施し、測定手法と測定期間を設定しましょう。「KPIを設定する」でお伝えしたSMARTモデルも活用しましょう。 測定する指標設定の注意点 直接カウントできるもの(登録者数/クレーム数/お問い合わせ数)から、顧客満足度/ブランドのファンの数などの何らかの測定調査を挟まないといけない場合があります。(人の気持ちが入る指標)後者の場合、その指標が正確に取れているか注意が必要です。聞き手の問いの仕方やバイアスの問題、調査方法の仕方などで数字が変わりやすい指標です。例えば顧客満足で4.5だったとしてそれは何に満足しているかわからない(立地/料理/おもてなし)サービスの理解度を5段階評価したところで知識のない人にとっての5はどの状態かわからない。働いている感情を聞くにしても、その日の気分によって変わるので、不可抗力も強いので、人の気持ちが大きく数値に入る指標は注意が必要です。KPIの指標は企業・担当者などの自発的な意思・行動によってスコアを積んでいけるものが良いでしょう(外部要因に左右されない) 測定期間を設定する際の注意点 ・施策のリードタイムを算出しましょうKGIに貢献するまでの想定のリードタイムの期間です。1つの作業を着手してから終了までの期間。例えば、見込み客にアプローチしてから取引が成立するまで。KPIの施策からどのくらいで貢献が数字で目に見えるかの想定します。その期間になれば、施策が数字に貢献しているか判断しましょう。なぜKGIに貢献するまでの期間が必要なのかは波及効果まで見ているからです。KSF/KPIは長期的なものもあり、必ず年内にKGIに貢献するとか限りません。短期的な取り組みと中長期的な取り組みが両立していることがバランスとしてはいいので、リードタイムを意識して検証しましょう。 9.施策を実行してPDCAサイクルを回す KPIを設定したら実際に施策を実行する運用フェーズです。KPIと事業の成果が連動しているかを確認します。四半期などの振り返り前に簡単な検証も必要です。簡易的でいいので、チェックします。日毎/週ごと/月毎など、都度都度KPIの測定・検証はするべきです。(リードタイムは長いものは別です)このままで目標に到達できるかKPIの施策をチェックします。KPIが機能していないと判断できれば、振り返りをする前に途中段階でも変更しましょう。外部要因によりKPIの数値が非現実的な場合は、数値変更も考えてもいいでしょう。結果が大事なのは当たり前ですが、KPIが妥当なのかの議論と結果に至る過程や方法も重要なので、ここの議論も忘れずに行います。シンプルがベストだが、絞り込めずに多くある場合は、運用しながら取捨選択するのも1つの方法です。(特にスタートアップ事業など) KPI設定が妥当かの検証 ストーリーの波及効果の確認KPIの数値が上がった時に波及効果で繋がっている数値も良くなっているか。もし波及効果が薄い場合なぜなのか考えます。単にトリガーとして弱いのか、外部の阻害要因が大きいかなど。補強が必要なら新たに補強する施策・KPIを考えます。波及効果が全部で弱いならKSFから見直すことが必要となります。 KPIの向上による経済的な効果が出ているか期間を比較するここで注意したいのが、全体のKPIに全体のKSFスコアが貢献しているかを最初から解析するということではありません。取り組み当初は、全体対全体で解析しても、短期的なものから長期的なものがあり、実行具合も違うので、各KPIや各KSFのスコアにばらつきがあり、トータルでまとめてしまうと1つ1つの施策の効果が分析しにくいです。まずは、1つ1つのKPIにより、経済的な効果が出ているかをみます。初期段階においては、できるだけ小さな単位で検証するといいでしょう。 10.検証(振り返り) KSFの是非は、四半期/半年/1年/3年くらいの評価期間を設定する。KPIの是非は、細い振り返り(数字だけではなく、行動も)は毎週・毎月などかもしれないですし、組織や取り組み内容によっても変わります。リードタイムを加味してその施策ごとに問題ないか適正なタイミングで検証します。 レポートの作成について 検証などを行う際に、アナリティクスなどを使ってウェブサイトのレポートを作成することもあります。その際のレポート作成のポイントですが、気づきを与えられるレポートにすることです。ただ単に現状の数値をまとめただけのレポートには価値がありません。そのレポートを見て、何が良くて何が悪くて、次に何をすべきなのかが明確であることが大事だと思います。誰になんのデータを与えれば、気づきになり、行動に移すことができ、事業がうまくいくのかを念頭に置きましょう。レポートを見る人が変われば必要な情報も変わってきます。レポートをどんな内容のレポートにするかは見る人の立場を考えます。レポートを見る人が複数人いる場合は、立場の高い人から順番に必要な情報を提供できるようなレポートにするといいでしょう。また、ウェブで収集したデータは、ウェブだけではなく、全てのマーケティングで活用するべきです。OMO(Online Merges with Offline)などのワードがよく聞かれるようになりましたが、膨大な情報が得られるウェブサイトの情報をウェブサイトだけに活かすのはもったいないことです。ウェブで得た情報を実際のオフラインのマーケティングに活かしたりできないか、事業全体を動かす気づきを与えれないかを考えましょう。 まとめ 今回KPIについてお話ししましたが、いかがでしたか?KPIの設定は、たくさんの参考書などが出版されていて、この記事だけでKPIをうまく使いこなすことは難しいと思いますが、「結果を出すKPIの作り方」の本質となるような幹の部分をお伝えできればと思い、作成しました。結論、全ては結果のためにやっていることで結果が大事かと思います。KPIは結果を出すための1つの方法に過ぎません。また、方法はたくさんあるかと思います。最近ではKPIに似たものとしてGoogleが採用しているOKRなども流行っていますので、色々調べてみてください!色々な考えを吸収して、自分流のベストな方法を構築するのが良いかと思います。それではこの辺で。